- 北方民族アイヌが口承して伝えたユーカラには、ハルニレの樹が登場します。
地域ごとにその伝わる内容が違っていたりしますが、重要な樹であったという事が伺えます。
- 曰く、神々が大地を創造した時に使った道具がハルニレの木材を使っていた。
曰く、神々が創造した世界に最初に登場したのがハルニレの樹であった。
曰く、神々がハルニレの樹から火をおこし、人間に授けた。
- またハルニレは女性神であったとされ、こんな伝承も残されています。
- ハルニレの樹の神、チキサニカムイは大変美しく、多くの神々が見とれていました。
雷神・カンナカムイもその一人で、天上から熱心にチキサニカムイを見つめていました。
ところが、悪戯好きの神が、カンナカムイを地上に突き落としてしまいました。
こうして地上に落ちたカンナカムイはチキサニカムイと結婚しました。
チキサニカムイは、生まれた子供に自身の樹皮から作った着物を着せました。
地域によって差異はあるようですが、だいたいがこのような内容です。
ハルニレという樹が、人々の生活にも深くかかわっていたということが伺えます。
また、ハルニレに落雷して発生した火が、人間が火を手にした始まりだとも読み取れます。
火を起こすときにも、ハルニレの樹皮や枝を使っていたとも考えられますね。
因にハルニレの樹皮から作られた着物は、実際に着用されていました。
ハルニレは柔らかく広がり枝を張りますので、女性的な印象を受けたのではないでしょうか。
北欧神話においても、最初の女性はニレの樹から創造されたと伝えられているのです。
なお、北欧神話では最初の男性はトネリコの樹から創造されました。
トネリコに近い種として、北海道ではヤチダモの樹があります。
すらりと高く伸びて荒々しい樹皮を持つヤチダモが、男性的であるというのも頷ける話ですね。
アイヌ語でも、ヤチダモは「ピンニ」、男性を意味する語は「ピンネ」となっていて、関連性を伺わせます。
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